銀座で「1冊の本を売る書店」として日本国内のみならず海外からも多くの訪問客が訪れ、ファンが多い森岡書店。今回は、その店主である森岡さんに変化と出会いの物語についてお伺いさせていただきます。
ーまずは、新たに「森岡総合研究所」という取り組みを始められたとお聞きしましたが、どういったものなのでしょうか?
森岡書店が実際に会うことができる場所なのでオフ会的なものだとすれば、それをネットで繋げたオン会みたいな存在だと思います。
ーオン会ですか?笑 いきなりの森岡さん的な表現でとても面白いですね。サイトでは歌う森岡さんの姿も見れますが、歌うことはお好きなんですか?
歌は苦手なんです。極力近づきたくないですね。あれは、研究所のコアとなる価値を示すために作った動画なんですが、元々は娘に向けて作った歌なんですよ。学校は嫌いではなかったんですが、今ならばもっと面白いと思えることも小さな時には気付けなかったんですね。娘を見ていて、そんなことを思い出して、もっと世界は面白いっていう知的好奇心を持ってもらうために作った歌なんです。
森岡書店 銀座
ーそうなんですね。娘さんのためとはいえ、苦手な歌で伝えるっていうところに森岡さんの深い愛情を感じます。ところで今回なんですが、銀座の森岡書店さんが日本のみならず世界から注目を浴びる場所であり、その誕生の経緯については色んな記事でも拝見できると思いますので、そこに至る物語をぜひお聞かせください。まずは本や建築好きのイメージが強いのですが、幼少期はどんなお子さんだったんですか?
山形で生まれ育ったんですが、普通の田舎の子どもでしたよ。魚や虫取りに明け暮れているような。5、6人で良く遊びに行ってましたね。
ー意外にアウトドアな感じなんですね。
そうです。魚も釣りではなく、モリで突いて取っていたのですが上手かったですよ。あの経験は今の仕事にも繋がってますね。
ーモリで魚を取ることと、森岡書店がですか?
ええ。狩猟的な人と農耕的な人がいるとすると僕は圧倒的に前者で。東京って大自然だと思うんですよね。そこで色んな狩をして、生計を立てていくって今にも通じてる気がするんです。
ー東京が大自然ですか?
そうですよ。コンクリートだって元々の素材は自然界にあるもじゃないですか。だから東京って大自然ですよ。
ー面白いですね。緑だけが自然じゃないってことですね。魚を取る以外はどんなことに熱中していたんですか?
もう一つの趣味は、切手やコインの古いものを集めることでした。近くにお店はなかったので大阪のアプセンターというお店で通販で購入してました。
ーこれも友達と共有してたりしたんですか?
これは僕一人の趣味でしたね。家にあった戦前の普通切手がかっこよくてそこから始まったんです。
ーそうなんですね。本との出会いというと?
本は中学になってからですね。ちょうど通学路に本屋さんがあったのでよく通ってました。
ーそこではどんな本を読まれてたんですか?
よく読んでたのはファッション誌やカルチャー誌でしたね。ちょうど渋カジや古着ブームの時代で、紙面から伝わってくる生地感のカッコよさとかに惹かれましたね。
ーちょうど多感な時期ですもんね。やっぱりモテたいとかから始まったんですか?
いや、全然。モノそのもののカッコよさでしたね。集めた切手やコインを売って、デニムを仙台まで買いに行ったりしましたね。
ーなるほど。ファッションというものも、アンティークや古いもののカッコよさといった軸で捉えていたんですね。高校卒業の時に進学とかはどんな風に考えられたんですか?
学校の先生には、古着屋とかやりたいのでビジネスを学びたいと言ったんですが、全然ピンと来てないようでした。今考えると当然ですよね。なんだ古着屋って、という感じですから。当然反対された上で、お前は何がやりたいんだと。色々考えた結果、祖母の影響なんかもあり太平洋戦争あたりの歴史に 興味を持ってたんですよね。そこに繋がる学びから見つけたという感じですね。
ー大学生活はどうだったんですか?
ずっと本を読んでいた時代ですね。そこから、神保町という町の魅力にどっぷりはまってしまって。よく通ってましたね。
ー就職活動はどうだったんですか?
今から思うと働きたくなかったからという理由かもしれませんが、当時は環境問題などにも意識があって。このままの社会でいいのかという疑問を持ちつつ、そこで働くということが出来なくて、一旦立ち止まってみようと思ったんですね。その時は色んなバイトをして過ごしましたね。
ーその後一誠堂書店さんに入社されれますよね?
1年ぐらいそんな期間を過ごしたときに、たまたま新聞の広告で見つけたのがきっかけですね。一誠堂書店は僕の憧れの近代建築の中にありましたし、そんな建物の中で、僕の好きな本のリサイクルに携われるって素敵だなって思ったんですよね。
ー働き始めてからはどうだったんですか?
8年勤めましたが、本当に素敵な場所でしたよ。定年までいようと思ってましたから。
ーどんなところが素敵だったんですか?
まず社長が素敵な方でしたね。古本のことで全然わからなかった僕に、仕事を通じて勉強する機会を多くいただけたんですね。学ぶことの重要性と、その上でお客様から質問があってわからないときはわからないと伝える素直さを持つ重要性も教えてもらいました。あそこでの経験で、本当に全て学ばせてもらったと思うぐらい、僕にとっては大切な場所でしたね。
ー素敵な社長さんですね。
もう一つは、一誠堂書店の隣にある松村書店の松村さん。店先を掃き掃除してたら気さくに話しかけていただいて。隣で働く僕たちをそば屋さんやお寿司屋さんに連れていってくれましたね。その度に食い方がなってないとよく怒られました。笑 松村さんからは遊び方とかいろんなことを学びましたね。
森岡書店 茅場町(現在は閉店)
ー隣のお店の人からそんなたくさんのことを学べるってとっても貴重ですね。そんな素敵な環境を出発して、茅場町に森岡書店を作られたのはどうしてでしょうか?
物件との出会いが全てでしたね。私の好きな建築であり、周りの環境も素晴らしかった。そしてなおかつ自分でも借りられそうな値段だったんで、そこを見つけてしまったからという感じの始まりでしたね。
ーそんな一目惚れみたいな出会いがあったんですね。そこからの出発は順調だったんですか?
全くでしたね。売上どころか、お客さんが来なくて。当時雑誌なんかにも結構取り上げられていて、来てくれると思ってたんですけどね。全くダメでした。
ーどこがダメだったと感じられているんですか?
うーん、甘かったんでしょうね。3か月そんな状態が続いて、その冬には資金が尽きてお店を出ていかなければいけないという状態まで追い詰められましたね。
ーそこからどんな変化をしていったんですか?
あるお客さんから、場所は素敵なんだからギャラリーをしてみたらって言われて。そこでギャラリーとして色んなものを企画し出したんですよね。そこからですかね、徐々にお客さんが来て下さるようになって。
ーじゃ、そこからは好調になったと?
いえいえ、好調っていうのはなくて。トントンですね。茅場町をやってた9年間、ずっとそこからトントンでした。けど、続けられていることが有難かったですね。
ー狩猟思考の森岡さんにとって、ホームを持って待つというは苦手ではないんですか?
いやいや、場所は変わらないですけど、企画が変わると、来るお客さんが変るので。毎日、今日はどんなお客さんと出会えるかなというのが楽しかったですね。
ーそのあたりのエッセンスがまさに今の森岡書店には凝縮されているんですね。最後に、アンティークや建築、工芸に本まで色んな『モノ』が大好きな森岡さんにとって『モノ』の面白さとは何ですか?
もちろん背景に持っている物語もそうですが、そのモノがその空間にあることによって引き起こされる出来事も好きなんですよ。このイスを置いておいたら、座りたいと思ってくれて、その想いから始まるコミュニケーションを妄想するのが好きなんですね。
ー森岡さんにとって、過去にある物語だけではなく、未来巻き起こる物語も含めてのきっかけとなるのがモノなんですね。森岡さんの物語、とっても楽しく聞かせていただきました。今後の活動も楽しみにしております。本日はありがとうございました。